
早稲田大学演劇博物館(新宿区西早稲田1)が現在、戦後80年の日本演劇を振り返る企画展「演劇は戦争体験を語り得るのか-戦後80年の日本の演劇から-」を行っている。
戦後80年の日本の演劇において第2次世界大戦の経験がどのように語られてきたかをたどる同展は、同館助手の近藤つぐみさんと、同大大学院生の矢内有紗さん、関根遼さんの1990年代生まれの若手研究者3人が企画した。
近藤さんは企画について「コロナ禍に舞台芸術界の深刻な打撃を受けて始まった文化庁の舞台芸術アーカイブ+デジタルシアター化支援事業『EPAD(イーパッド)』により、過去の演劇映像など舞台芸術のアーカイブ化が進んだことにより振り返りやすくなった」と話す。EPADでデジタルアーカイブされたデータは、同館が中心となって管理・公開を行う。会期中、展示室に設置したモニターや閲覧室で一部公演の上映も行う。
展示は、日清戦争から第2次世界大戦中の戦争と演劇の関わりをテーマとする「プロローグ」、第1章「『当事者世代』の戦争演劇」、第2章「原爆の表象、あるいは表象不可能性」、第3章「『焼け跡世代』の演劇人と戦争の影」、第4章「さまざまな視点から見た戦争」、第5章「沖縄と終わらない戦争」の構成。
文学座の代表的作品の一つ「女の一生」の1945(昭和20)年の初演上演台本、同大出身の劇作家、故・別役実さんの戯曲「象」の直筆原稿、野田秀樹さん作・演出「パンドラの鐘」「オイル」の舞台美術模型など、ポスター、チラシ、台本、プログラム、スチール写真など約100点のほか、展示室に設置した壁面に戯曲の印象的な文節のテキストを書き出し展示する。空間デザインは、1級建築士で新宿梁山泊の舞台美術デザインも手がける大塚聡さん。
展示室に設置する出品リストに2次元バーコードを掲載し、取り上げた演劇作品の解説をウェブサイトで閲覧できるようにするなど理解を深めるための工夫をする。
近藤さんは「当初タイトルは『演劇は戦争体験を語り得たのか』としていたが、今なお世界各地で続く戦争に直面する状況で、過去形で終わらせていいのかと考え直し現在形の問いとした。不安定な状況下で、演劇ばかりでなく芸術に何ができるかを考える人は多いと思う。その答えは出せない。考え続けることなのだと思う。この展示が考えるきっかけになれば」と期待を込める。
開館時間は10時~17時(火曜・金曜は19時まで)。入館無料。8月3日まで。