
早稲田大学演劇博物館(新宿区西早稲田1)が、2028年に迎える開館100周年に向けて記念事業を始めた。
同館の正式名称は早稲田大学坪内博士記念演劇博物館。同大の講師を務め、文学部の創設に尽力した坪内逍遙の構想を基に、逍遙の古希と「シェークスピヤ全集」の完成記念に合わせて1928(昭和3)年に構内に開館した。
建築物は、多くの人に公開するために「図書館でなく博物館であること」、関東大震災を教訓に「鉄筋コンクリートであること」などの逍遙の強い要望を具現化する形で、シェークスピアが活躍した時代の「フォーチュン座」を模して建設された。建物正面の張り出しは舞台となっており、その正面には、シェークスピア作品にも関わる名言「全世界は劇場なり」のラテン語「Totus Mundus Agit Histrionem」が掲げられている。
開館式に逍遙は、日本の演劇文化をより高めるためにも比較研究が重要として「古今東西のあらゆる演劇に関する資料を幅広く収集する」と宣言している。同館の齋藤治子事務長は「これほど国やジャンルを限定せず、さまざまな演劇関係資料を収蔵する博物館は他に例がないのではないか。この逍遙の理想を100年間受け継ぎ守り通してきた愚直さがまさに早稲田文化、早稲田大学らしいと感じる」と話す。
収蔵品は、役者絵を中心とする錦絵4万8000枚、演劇舞台写真40万枚、演劇関連図書15万3600冊、台本11万6400冊、チラシ・プログラムなどの上演資料8万点、衣装・人形・書簡・原稿などの博物資料15万9000点、江戸時代までの日本演劇に関する和装本10万冊、映像や音声による資料7万点のほか、演劇公演のチケットの半券や有名俳優にファンが送ったファンレターや手作りの人形などまで100万点を超える。
同館では100周年記念事業の第1弾として現在、同大會津八一記念博物館で貴重収蔵品を展示する「舞台衣装展」(8月3日まで)、本庄早稲田の杜(もり)ミュージアム(埼玉県本庄市)で「昭和100年演劇・映画ポスター展」(2026年1月18日まで)を開いている。
齋藤さんは「誰もが素晴らしいと感じるような衣装を展示して知名度を上げていくところから100周年をスタートさせた。まずは当館のことを知ってもらいたい。無料で入館できるので学生にもOBにも一般の方々にも気軽に立ち寄ってほしい」と話す。
100周年に合わせて、収蔵資料の適切な維持・保管、収蔵資料の海外を含めた積極的な発信などを目的とする「記念事業募金」活動を行う。児玉竜一館長は「演劇に関わるものであれば全てを受け入れるという姿勢が、当館のあらゆる方針を支える思想になった。100年にわたって収集してきた資料の整理のためにも、収蔵のためにも、公開のためにも、活用のためにも支援いただきたい」と呼びかける。