「第10回 早稲田大学坪内逍遙大賞」の授賞式が12月1日、リーガロイヤルホテル東京(新宿区戸塚町1)で行われ、大賞の沼野充義さん、奨励賞の井戸川射子さんが出席した。
同賞は文芸をはじめ、文化芸術活動に著しく貢献した個人また団体を隔年で顕彰する。早大文学部の前身・東京専門学校文学科を創設した坪内逍遙の精神を、広く未来の文化の新たな創出につなげるため、2007(平成19)年、早大創立125周年を記念して創設された。これまでに作家の村上春樹さん(第1回)や映画監督の是枝裕和さん(第7回)らが受賞している。
東大名誉教授の沼野さんはロシア文学やポーランド文学、現代文芸論などが専門。研究者、批評家として幅広い文化活動がある。選考委員長の奥泉光さんは「飜訳、批評というジャンルで日本語の世界にすごく批評的な新しい表現をもたらした」とコメントした。
「振り返れば、好きなことを好きなようにやってきただけのわが身。私の役柄はせいぜい、のべつ幕なしに下品なことを大声でしゃべり続ける喜劇役者におずおずと突っ込みを入れる、気の弱い相方のようなもの。その喜劇役者は世界という」と沼野さん。「この喜劇役者のくだりはポーランドの詩人スタニスワフ・バランチャクの言葉をオマージュしたもの。バランチャクは詩がこの世で一番大事なものだと教えてくれた恩師。きっと遠くの方から今頃ウインクしてくれていると思う」と話した。
次世代文化の担い手に贈られる奨励賞を受賞した井戸川さんは自由詩や定型詩、小説など幅広いジャンルの著作がある。2023年には「この世の喜びよ」で第168回芥川龍之介賞を受賞した。奥泉さんは「非常に高いセンスを用いて、日本語が表現し得る世界を大きく広げていった」とコメントした。
井戸川さんは「この賞の『次世代文化の担い手』という言葉にとても励まされている。自分の第1詩集にも『私たちは文化のランナーである』というようなことを書いたと思い出した。私というすごく小さな輪だけれど、文化というつながっていくものをつなぐチェーンの一部になれたら思う」と話した。