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戸山公園野外演劇祭スタート

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 都立戸山公園(以下、戸山公園)が園内箱根山地区の陸軍戸山学校野外演奏場跡を舞台とする「戸山公園野外演劇祭」を企画、1月17日に第1弾として上演した「浜辺のアルカ」を皮切りに、5月17日から3日間上演された演劇カンパニー平泳ぎ本店「若き日の詩人たちの肖像」まで、6団体が上演を行った。

戸山公園と陸軍戸山学校野外演奏場

  戸山公園は1954(昭和29)年に開園。明治通りを挟んで東西に箱根山地区と大久保地区があり、約19万平方メートルを有する。箱根山地区は、元は尾張徳川家下屋敷「戸山荘」で、その一角の築山が現在の箱根山。
 明治維新後、陸軍戸山学校となり、第2次世界大戦終結まで存続した。箱根山の登り口の東側の谷間は、同校軍楽隊が演奏場としていた場所で、後に作曲家として活躍する芥川也寸志、團伊玖磨、斎藤高順、奥村一らを輩出している。

きっかけはコロナ禍での早大演劇サークルの公演

 1966(昭和41)年に、唐十郎が主宰する状況劇場の芝居「腰巻お仙」の上演歴はあるものの、この場所が演劇やパフォーマンスの舞台として、以降、公式に活用されることはなかったという。
 野外演劇祭開催のきっかけとなったのは、コロナ禍で演劇界全体が厳しい状況の下、2021年10月に早大生の演劇サークル「演劇ユニットカンタロウ」が同演奏場跡地で行った公演だった。
 戸山公園サービスセンターの杉山俊司センター長は、演劇サークルのメンバーから「公演らしい公演を行うことなく大学生活の終わりが近づいている。大学からも近く慣れ親しんだ戸山公園の歴史ある野外演奏場跡地で公演を行いたいと申し出があった。屋外とはいえ人が集まることへの懸念はあったが、大学生の思いを受け止めて何とか実現できないかと考えた。何度も打ち合わせや調整を行い、感染対策を徹底して無事7公演を終えた。この時、近隣の住民や公園を散歩する幅広い世代の人たちが、練習風景や本番の上演を立ち止まって見て楽しんでいる姿を見て、公園でこんなこともできるのだと感じた」と話す。

「演劇ユニットカンタロウ」の公演

戸山公園が演劇祭企画そして参加団体募集

 この経験から、戸山公園では、野外演奏場跡地を舞台として活用する演劇祭を2023年度の事業計画に盛り込む。杉山センター長は「公園を単に空間として維持管理するだけでなく、近隣住民や公園の利用者に親しみを持ってさまざまな形で使ってもらう。これがこれからの公園の一つのあり方だろうと考えた」と話す。
 2023年度内の上演を目指して、まず早稲田大学の演劇サークルなどにメールで呼びかけた。しかし全く反応がなく、杉山センター長は「演劇業界とは全く無縁でほかに手だてもなく夏が過ぎた」と振り返る。
 そして、2023年10月2日から公式サイトで参加団体を募集。2023年秋~24年春の開催を目指すとしながらも、締め切り日、公演日など詳細は決めずに参加団体を募り、参加者の意見を取り入れながら演劇祭を作り上げていくと呼びかけた。

参加を呼びかける杉山センター長

このニュースは高田馬場経済新聞でも取り上げた。

戸山公園野外演奏場跡地で演劇祭 地域から参加団体を募集

 転機となったのは、募集を知った早稲田大学の劇場「早稲田小劇場どらま館」で制作を担当する吉田恭大さんからの連絡だった。「学生たちの活動の場所を提供することも私たちの仕事の一つ」という吉田さんが「下見会」を提案、公式サイトでの呼びかけのほかに、演劇サークルの所属していた早大のOBでもある吉田さんが、早大演劇サークルや演劇活動を行う知人に声をかけるなどして参加を募った。
 この見学会に11人が参加、1月の公演を皮切りに第3弾までがこの下見会の参加者の公演だった。

第1弾 「浜辺のアルカ」 劇団樹海×ねごねごんざれす!公演の様子

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バックステージツアーも

 第6弾となった平泳ぎ本店の公演では、野外演劇とこの街に強い思い入れを持つ同劇団主宰の松本一歩さんの企画で、公演終了後、この場での舞台作りのノウハウを共有するバックステージツアーと箱根山登山を組み合わせた「夜のピクニック」を行い3日間で約100人が参加した。参加者の中からは、具体的に「ここで公演をやりたい」という声が複数挙がったという。

第6弾「若き日の詩人たちの肖像」 平泳ぎ本店第6弾「若き日の詩人たちの肖像」平泳ぎ本店 公演の様子

第6弾「若き日の詩人たちの肖像」平泳ぎ本店 終演後のバックステージツアー「夜のピクニック」舞台説明

第6弾「若き日の詩人たちの肖像」平泳ぎ本店 終演後のバックステージツアー「夜のピクニック」箱根山登山

第6弾までの公演を振り返って

 同公演参加者へのアンケートによると、「初めて戸山公園に来た」という人が半数以上で、公演のことを知ったきっかけは「劇団のSNS」「知人からの口コミ」が多数を占めた。

 また、「これからも戸山公園で演劇をぜひ見たいという回答が64%という結果だった。

 この結果に杉山センター長は「この公園を知らない人に紹介ができたし、魅力も知ってもらうことができた。『夜のピクニック』の最後に箱根山に登ってもらい、新宿の夜景を見ながら公園の歴史を紹介することができた。公園を知ってもらい有効活用するという点で本当にうれしい」と話す。

今後の演劇祭について

 同センターで、この企画を担当する東京都公園協会の高田耕作さんは「これまでの公演を通して思うことは、皆さんがあの場を本当に自由な発想で使っているということ。私たちの想像を超える演出で、あの場が生かされていると感じる」と振り返る。
 同園には、来年度の予約の問い合わせや演劇以外のことはできないかなど、さまざまな問い合わせがあるという。
 杉山センター長は「これまでの公演を経て、新たなニーズや課題が浮かび上がってきた。演劇だけでなく違う可能性も試していきたい。いつか、ここから大スターが出てきてほしい」とほほ笑む。

 参加団体は随時、募集している。
 

2024年6月末までの上演

第1弾 「浜辺のアルカ」 劇団樹海×ねごねごんざれす!
  2024年1月17日 13時、15時
第2弾 「よごれてゐない一日」 よごれてゐない一日
  2024年2月29日14時、16時
第3弾 「春のピクニック」 やぎシアター
  2024年3月17日 13時開演
第4弾 「更地」 ルサンチカ
  2024年3月22日、23日 13時~ 24日、25日 11時~ 
第5弾 「女体」
  2024年3月31日、4月7日 15時開演
第6弾「若き日の詩人たちの肖像」 平泳ぎ本店
  2024年5月17日~19日 18時30分~
第7弾「狂言山月記」 #家で出来る演劇
 2024年6月6日~7日、18時~、8日 15時~、18時~、9日、15時~ 全5公演
第8弾「赤鬼」 行動単位そこぬけ
 2024年6月23日、29日 14時~、30日、11時~、14時~ 全4公演
 

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