早稲田大学が9月29日、「第9回早稲田大学坪内逍遙大賞」の受賞者を発表した。大賞は作家の池澤夏樹さん。奨励賞は法政大学准教授で作家のグレゴリー・ケズナジャットさん。
同賞は早大の文学科を創設した坪内逍遙をたたえようと2007(平成19)年、早大創立125周年を記念して創設。文芸をはじめ、文化芸術活動に著しく貢献した個人また団体に贈る。作家の村上春樹さんや映画監督の是枝裕和さんなどが受賞している。
池澤さんは、小説や詩、評論、紀行随筆、翻訳などでの幅広い創作活動がある。近年の個人編集による「世界文学全集」「日本文学全集」(各、全30巻、河出書房新社)の刊行や、今年出版した長編小説「また会う日まで」(朝日新聞出版)を「改めて顕彰されてしかるべき」と評価した。
池澤さんの受賞について、選考委員で早大教授の松永美穂さんは「坪内逍遥大賞は国際文化交流、文化創造、伝統文化の継承など、社会と公共の利益を増進することに寄与した文化芸能活動を顕彰するとうたうが、池澤さんは創作による文化創造、そして翻訳などを通した国際文化交流、そして日本文学全集などで伝統文化の継承など、この全てに当てはまる仕事をされている方だと考える」とコメントした。
幅広い創作活動について、池澤さんは「これまで何をしてきたのかなと考えて、確かにいろいろやってきたが、おそらく仕事が散らかった理由の第一は飽きっぽいことだろうと思う。何か一つのことをやって、ひとしきりやると全く別のことをしたくなる。それを重ねているうちにここまで来た」と振り返る。「これから何をやるかって、いくつかプランがあるし、多分それをまだしばらくは元気でいて、書いていけるだろうと思う」とも。
次世代の文化の担い手に贈られる奨励賞を受賞したケズナジャットさんは、米国・サウスカロライナ州出身の39歳。母語の英語、父親のルーツがもたらすペルシャ語、新たに学んだ日本語を話す。デビュー作の「鴨川ランナー」や芥川賞候補作にもなった「開墾地」(以上、講談社)を日本語で発表。選考委員は「日本語表現の新たな可能性を切り開く作家として大いに期待したい」と評価した。
選考委員長で近畿大学教授の奥泉光さんは「ペルシャ語、英語、そして日本語という、その狭間にあること自体を非常に強く小説の主題にしているというのが非常に魅了で興味を引かれるという点が評価された」とコメント。選考委員で文芸春秋の武藤旬さんは「異邦人文学というのはある種、深刻さというか暗さがどうしても付きまとうような気がするが、ケズナジャットさんは非常に爽やかさというかユーモアも感じさせるような非常にしなやかな感性で書かれていて、そこも新しいと受け止めた」とコメントした。
ケズナジャットさんは「越境文学とか日本語を母語としない作家は結構増えてきたと思うが、日本と非日本の二項対立が今まで結構使われてきたので、何か別の角度から考えていかないと、新しいものを書けないのではないかという思いがあって、作品に書き加えた」と話した。