新宿区が行う「野菜大好き月間」のスペシャル企画のうちの一つとして、国際薬膳師、国際薬膳調理師の資格を持つ舟川忍さんが9月7日、戸塚地域センターで秋をテーマに薬膳のレクチャーと野菜をふんだんに使った料理の試食会を行った。
「内藤とうがらし」の苗を受け取る学生NPO農楽塾とうがらし課の課長を務める林幸歩さん(右手前)
野菜の「や」にちなんで、2018(平成30)年から毎月8日を「しんじゅく野菜の日」として、野菜を食べるきっかけづくりを行っている新宿区。今年新たに9月を「野菜大好き月間」と定め、取り組みを展開している。
舟川さんは、自身や家族の健康のため薬膳の勉強をはじめ、国際薬膳師、国際薬膳調理師の資格を取得。現在は曙橋のバーを間借りして、月に4日程度、薬膳を取り入れた飲食店「福うさぎ」を営業している。「野菜大好き月間」に参加する事業者を探していた同イベント所管課の一つ、新宿区の健康づくり課の担当者が、舟川さんの店の前を通り掛かりチラシを目にして声を掛けた。
舟川さんは「『しんじゅく野菜の日』の取り組みのことは知っていた。関連する区のイベントに参加できることをとてもうれしく思った。今回のように講座形式で薬膳や料理について話をするのは初めてで緊張したが、良い経験と出会いを与えていただいた」と振り返る。
できるだけたくさんの野菜が摂取できるようにと舟川さんが用意したレシピは、山芋、白キクラゲ、ジャガイモ、キャベツ、ニンジン、タマネギをやわらかく炊いて作る「秋のペースト」と、それを活用した「野菜たっぷりトロッとスープ」と「ホクぽかベジグラタン」。スープには体を冷ます効果があると言われる食材を使い、まだ夏の暑さが残る秋の前半に、グラタンには体を温める効果があると言われる食材を使い、冬に向かって寒気が入ってくる秋の後半に食べると良いなど、薬膳の知識とレシピを説明した。
試食の時間には、使われた食材や料理にちなんだ作品の朗読が行われた。作品の選定と朗読を行うのは唐ひづるさん。旧知の仲だった唐さんが朗読の活動をしていることを知った舟川さんが、「福うさぎ」でイベントを行う際に声を掛け薬膳と朗読の会が始まったという。
同日は、結核を患う筆者自身が「自分は日に日に伸びるともなく伸びるやうな草木の健康を妻と子どもと朝朝のスープの愛によって取り返した」とうたう、山村暮鳥の詩「朝朝(あさあさ)のスープ」ほか、宮沢賢治の「黄色のトマト」、スエーデン民話から「くぎスープ」の3作品が披露された。「くぎスープ」の朗読では、作品中の食材名を試食中の料理の食材に差し替えて読む唐さんの工夫も。
「薬膳師としてお伝えしたいことは、季節、体調、体質、環境によって食べ物を選ぶ知識や習慣を身に付けてほしいということ。例えば真冬に冷たい生野菜をもりもり食べることはお勧めできない。単に野菜を食べればいいということではなく、情報を持って自分で選んで摂取することが大事」と舟川さんは言う。「ただ、薬膳の専門知識の習得は容易ではない。映画の中の料理、食事中に聞こえてくる音楽や会話などと結び付いた日常の体験からふんわりと知識が残っていけばいい。味覚や嗅覚だけでなく全ての感覚を使って食事をしてほしいという思いから唐さんに朗読をお願いした。このイベントが自分や家族の体と相談しながら野菜やその料理方法を選ぶきっかけになれば」と意図を説明する。