第5回早稲田大学次世代ロボット研究機構シンポジウム「ロボティクススタートアップ会議~ロボットベンチャーの成功を考える~」が早稲田大学(新宿区戸塚町1)で9月7日に開催された。
メルティンMMIの手掛けるアバターロボット「MELTANT-α」
同大で9月2日~7日に開催された「第37回 日本ロボット学会 学術講演会」の一プログラムとして開かれた同シンポジウム。「大学発スタートアップを中心に起業家の生の声を聞くことで、起業のイメージを具体化してもらうこと」を目的とする。主催は、早稲田大学次世代ロボット研究機構と研究用ロボットアームや人型ロボットなどの開発を行う東京ロボティクス(新宿区西早稲田2)。
東京ロボティクスの坂本義弘社長が産業技術総合研究所(産総研)の研究者で、肘関節のない小型協働ロボットを開発するライフロボティクスを創業し、会社を売却した尹祐根(ゆんうぐん)さんと「インターネット関連企業は短い期間で大きな企業価値がつき、上場に至っているケースがある一方で、ロボットベンチャーが苦戦しているのではないかという印象がある。ロボットベンチャーの課題を克服しよう」という共通の課題意識を持っていたことが開催のきっかけとなった。
さらにロボットを研究している若手の研究者・学生たちから「自分たちが研究している技術でどのように起業するのか、そのプロセスを知りたい」という話があったことで、坂本社長が早稲田大学次世代ロボット研究機構の大谷(おおや)淳機構長に話を持ち掛け、同学術講演会でシンポジウムが実現することとなった。
研究者・技術者出身のロボットベンチャーの起業家を招き、それぞれが取り組む事業紹介と「なぜ起業したか」「起業にあたっての障害とその克服」「起業して軌道に乗せるには何が必要か」「資金調達のポイント」「テックベンチャーのリスク」「起業の夢・楽しさ」などの話題を提供した。
シンポジウムの冒頭で坂本社長が同シンポジウムの趣旨を説明。「ロボットベンチャーでは、『技術的にできること』『顧客が欲しいこと』『コストが見合うこと』の3つが交差する部分が少なく、さらにその中で競合との競争がある。J字カーブを描く成長曲線の谷が深く、多額の資金が必要で、時間がかかる割に成長性が低いとも言えるロボットベンチャーをなぜやるのか、どのような勝算があるのか、どう資金調達したのか、有意義な話題を提供できる場にしたい」と話した。
登壇したのは、ソーラーパネル清掃ロボットを開発する未来機械(香川県高松市)の三宅徹社長、水中ドローンの開発および製造を行うFullDepth(台東区)の伊藤昌平社長、飲食業向けロボットサービスの研究開発および販売を行うコネクテッドロボティクス(小金井市)の沢登哲也社長、生体信号・ロボット技術を利用したサイボーグ事業に取り組むメルティンMMI(中央区新川1)の粕谷昌宏社長。三宅社長は出張先のドバイからオンラインで参加した。
登壇者のプレゼンテーションの後、尹さんがファシリテーターとなり、4人の登壇者とパネルディスカッションを行った。「起業して良かったこと、つらかったこと」「起業する時、最初に相談すべき人、相談すべきでない人」「ハードウエアベンチャーとしての成長戦略について」などの質問に登壇者が実体験を元に回答を行い、参加者からも質問を受け付けた。100人近い参加者が、起業の実体験から得られた話題に聞き入った。
パネルディスカッションで尹さんは「どのように資金調達すればいいのか、チームビルディングをどうすればいいのか、起業すると初めてで分からないことが多い。僕たちが得た『これをすると失敗する』というノウハウを次の世代に提供するエコシステムが重要。分からないことは、僕や目の前の登壇者のような経験者に話を聞きに来てほしい」と呼び掛けた。
坂本社長は「ハードウエアベンチャーの難しさを克服するヒントがいくつも得られた。極限環境で使われるロボットがビジネス化しやすい傾向にあるが、課題を明確にして顧客のニーズに向けて作り込むことがポイント。味方になってくれる、お互いに成長できるような良い顧客とつながることも重要。資金調達は自分の魅力を伝えるセールス。生い立ちから一貫したストーリーで今に至っている社長は、ベンチャーキャピタルからの支持も得られやすい」と話した。
「シリコンバレーでは『クレイジーであればあるほど成功に近づく』とも言われている。後に続く若手の皆さんも大きな夢を持って起業してもらいたい」とシンポジウムを振り返った。