「早稲田大学演劇博物館」(新宿区西早稲田1)が10月9日、「エンパクシネマ2020」と題し、無声映画の上映会を開いた。
同イベントは、エリザベス朝時代、16世紀イギリスの劇場「フォーチュン座」を模して設計されたハーフティンバー様式の外観を生かすイベントとして企画され、2017(平成29)年から継続開催。同館の前舞台に大型のスクリーンを設置し、16ミリのフィルムのサイレント映画を投影する。弁士の説明と楽器の生演奏で映画を楽しむ秋の野外イベントとして人気を得ている。来場は自由で、昨年は450人を上回る観客が鑑賞した。
今年は、新型コロナウイルス感染症感染拡大防止の観点から、早稲田大学小野記念講堂で、収容人数の4分の1相当の35人を定員として企画。事前予約制で抽選に当選した希望者が鑑賞した。会場では、検温などの健康状態のチェックのほか、間隔を開けた座席指定など、さまざまな感染防止対策を施した。
上映に先立ち、同館児玉竜一副館長は「コロナ禍以来、公式に学内の建物を使って行う初めての催しとなる。できる限りの対策を講じて、少しでも大学を開いていこうと開催を決めた」と述べた。
上映した映画は3本。米国のサイレント・コメディー「キートンの警官騒動」を山城秀之さんが、日本のアニメーション作品「動物村の大騒動」を山内菜々子さんが、吉屋信子の「花物語」を原作にした長編映画「福寿草」を澤登翠さんが説明した。
企画を担当した、早稲田大学演劇博物館助教 久保豊さん(現在は金沢大学准教授)は、現在、同館2階企画展示室で開催中の企画展「Inside/Out -映像文化とLGBTQ+」に寄せて、「吉屋信子の『花物語』を原作とした『福寿草』(川手二郎、1935年)が描く兄嫁に対する少女の情愛は、しばしば同性愛的な視点から評価されてきた。企画展は1945(昭和20)年以降の映像史をたどるものなので、戦前の例としてご紹介したく、澤登翠さんに依頼した」と企画の意図を説明する。
「動物村の大騒動」を説明した山内さんは、大学時代、澤登翠さんの実演を含む授業を受けたことを契機に活動弁士を志し、2009(平成21)年7月に澤登翠一門に入門した。「エンパクシネマ」2回目の出演。
「エンパクシネマ」について、山内さんは「昨年は、天気もよく秋の星空の下でのライブは夢のようなひとときだった。退場する際、舞台上から普段は見る機会のないお客さまの顔が見えて、夜の明かりに照らさせて幸せそうに輝いていたことが強く印象に残る」と振り返る。
「今年はコロナ禍の中で、形を変えてでも、こうして上演され説明ができたことがうれしい。ライブにはライブの良さが、またオンライン配信にはオンライン配信の良さがある。双方の利点を生かして演劇やスポーツなどをもっと楽しめるようになれば」と話す。