明治の文豪、夏目漱石晩年の住居後地に新宿区が設置した漱石山房記念館(新宿区早稲田南町7、TEL 03-3205-0209)で現在、特別展「永遠の弟子 森田草平」が開催されている。
同館は、漱石が亡くなるまでの約9年間を過ごし「漱石山房」と呼ばれた家の跡地に新宿区が2017(平成29)年9月に開設した施設。この山房では「木曜会」と呼ばれた漱石のサロン的な会合が開かれ多くの文化人が集った。
森田草平は、東京帝国大学(現東京大学)在学中、1905(明治38)年に漱石の自宅を初めて訪問。その後、木曜会に参加し、漱石門下となる。「草平」の号は、漱石が森田に送った漢詩から取った。漱石没後、漱石作品の研究、漱石の伝記や漱石に関する随筆も多く発表している。
森田は、与謝野鉄幹が主宰する女子学生が文学を学ぶための「閨秀(けいしゅう)文学講座」で講師を務める中で、1908(明治41)年、聴講生として通っていた平塚らいてうと心中未遂事件を起こす。この事件は新聞などで大きく取り上げられ、森田は憔悴(しょうすい)するが、この事件の顛末を、漱石の勧めや同門下生の励ましにより、小説「煤煙(ばいえん)」として執筆。漱石の取りなしで東京朝日新聞社に掲載される。この作品が、小説家としての草平の評価を高め社会的復活を果たすきっかけとなった。また漱石も森田の話から着想を得て、小説「三四郎」のヒロイン「美彌子」を生み出す。
同展は、「文学者としてのスタート」「永遠の師との出会い」「煤煙事件とその余波」「朝日文藝(ぶんげい)欄」「漱石山房の森田草平」の5章で構成。
第3章「煤煙事件とその余波」では、「煤煙」の初版本4巻と併せて、東京朝日新聞の心中未遂事件の報道記事、「煤煙」の連載記事、漱石の小説「三四郎」のヒロイン美彌子の挿絵が掲載された連載記事などを展示する。
企画を担当した同館学芸員の今野慶信さんは「サブタイトルの『永遠の弟子』は、森田自身の言葉。チラシに記載した『私は、いわゆる門下生の中でも一番よく先生を知っていたとは言われない。一番多く先生から可愛がられたとは、なおさら言われない。が、一番深く先生に迷惑をかけたことだけは確かである。迷惑をかけたということは一向自慢にはならない。ただ、そういう自覚を持った時、私は一番先生に接近するような気がする』という森田の印象的なフレーズが象徴する師弟関係の一端を展示で紹介する。足を運んでほしい」と呼び掛ける。
関連イベントとして、講師に元龍谷大学教授の佐々木英昭さんを迎え、「平塚らいてう・草平・漱石-微妙な三者関係」(要予約)を11月20日に同館で開催予定。
開館時間は10時~18時(入館は17時30分まで)。月曜休館。観覧料は、一般=500円、小・中学生=100円。11月28日まで。