早稲田大学小野記念講堂(新宿区戸塚町1)で1月21日、喜多村緑郎さん、河合雪之丞さんら新派俳優による朗読劇「黒蜥蜴(くろとかげ)」が上演された。
同館が、秋季企画展「新派SHIMPA アヴァンギャルド演劇の水脈」の関連公演として行う朗読劇の第2弾。新型コロナウイルス感染症の影響で、対面でのイベントの開催が難しい状況の中で、音と声に特化した朗読というスタイルに可能性を見いだし企画したという。感染症拡大防止のため入場は事前予約制とし、定員も2分の1程度の80人とした。
「黒蜥蜴」は江戸川乱歩の探偵小説。三島由紀夫脚色、初代水谷八重子の女賊・黒蜥蜴で1962(昭和37)年に初演、その後、坂東玉三郎さん、美輪明宏さんなどが演じている。2018(平成30)年には、「新派版」として新派文芸部の齋藤雅文さんが、探偵・明智小五郎を喜多村緑郎さん、黒蜥蜴を河合雪之丞さんに当て書きで脚色・演出した公演を上演。今回の公演は、副題を「演劇博物館特別篇」として、これを朗読劇として再構成した。雪之丞さんは、玉三郎さんから譲り受けた着物を着用し舞台に臨んだという。
朗読終了後は、企画を担当した同館助教の後藤隆基さんを聞き手に、齋藤さん、緑郎さん、雪之丞さんによるアフタートークが行われた。
齋藤さんは「江戸川乱歩の原作には宝石の原石のような魅力を感じる。怪しげな人々が、怪しげな動機でうごめく昭和初期のバイタリティーを、そのまま舞台にしたいと考えた。邪道扱いされかねないギリギリのところで作っているという思いがあったが、企画展で『裁判劇』『殺人劇』などの過去の新派の上演記録などに触れ、これが本流だろうという気がして励まされ力強く思った」と話す。
朗読劇については、「前回の『十三夜』の朗読劇で、視覚情報がない中、音だけで物語を作ることは、とてもぜいたくで豊かなものだと思った。今回の朗読劇は舞台設定や状況の説明などは講釈師が担う趣向とした」と齋藤さん。最後に「困難な状況だが、私たちは、これからもへこたれず芝居を作っていく。どうか生の舞台に接する瞬間を持ち続けてほしい。そしてそのことを他の人にも伝えていただきたい」と会場に呼び掛けた。
現在、同館では「新派SHIMPA アヴァンギャルド演劇の水脈」開催記念ポッドキャストとして、関連したテーマで音声によるトークシリーズ「新派の系譜を語る」をオンライン配信している。