早大南門通りにある洋食店「キッチン南海 早稲田店」(新宿区戸塚町1)が9月30日、閉店した。
「キッチン南海 早稲田店」の人気メニュー「カツカレー(ロース)」
早大周辺にある飲食店の愛称「ワセメシ」の人気店で、店主の大根田新さんが神保町の「キッチン南海」(以下、本店)で修業した後、のれん分けで1973(昭和48)年3月にオープン。店名は「ヤング南海」だったが、開店から10年たった頃に客から「マスター、もうヤングじゃないな」と言われ、「キッチン南海」に変えた。
のれん分けで数ある「キッチン南海」の中でも、盆にのせ定食で提供するスタイルの先駆けの店で、学生の要望でカレーにもみそ汁を付け、好評だった。カレーのルーは本店とは異なり独自のものを追求。大根田さんは「それぞれのキッチン南海が生き残るために環境にあったメニュー作りをしていた」と話す。
作り置きせず、オーダーが入ってからパン粉を付けるなど、揚げたて、焼きたてを提供することにこだわってきた。大根田さんは「こぢんまりした店だから可能だった。利点を生かし、お客さんに喜んでもらえるようにやってきた」と振り返る。教職員の客も多かったことから、社会人向けのメニュー構成も心がけてきた。
大根田さんは「約50年にわたり、ここで商売ができて幸せだった。お客さんの人間性の良さに驚かされ、こちらも襟を正して店をやらないといけないとオープン時に思った。雰囲気のいい街で、商店街の人も付き合いのいい温かい人ばかりだった」と話す。これまで働いた早大生のアルバイトは60人を超え、店にはいくつもの思い出が残っている。
体力の限界を感じたことから閉店することを決め、静かに去りたいという気持ちから事前に告知せず、営業を終了。10月4日になって、貼り紙で閉店を知らせた。「自分からお客さんに話しかけないようにしていた。お客さんが席に座られたら、そこはお客さんの席。僕たちはカウンターの中で淡々と調理をしていた」と大根田さん。客との距離感を大切にしてきた大根田さんらしい閉店となった。
早大卒業生の戎井一憲さんは「突然閉店を知り、驚いた。神保町のキッチン南海や馬場南海の黒いカツカレーほど黒くない早稲田店のカツカレーが大好きだった。食べ納めにいけなくて、とても残念。大隈通りや南門通りの学生向け老舗飲食店がポツポツと引退していって寂しい」と話す。
高田馬場にあった「馬場南海」も今年4月に閉店していた。
(10月16日追記)後継者が店を引き継ぎ、「キッチン南国」として11月に営業を開始することがわかった。