夏目坂通りにある「とんかつ豊」(新宿区喜久井町)が11月12日、閉店した。
日本料理店で経験を積んだ杉田康夫さんが1972(昭和47)年にオープン。当初は、向かいにある感通寺の現在は土壁になっている場所にあったが、2001(平成13)年に現在の場所に移転し、営業を続けてきた。店のことを「夫婦でやっている普通のとんかつ屋」と言い、ほほ笑む杉田さん。近隣住民や早大生、早大の教職員などに長年親しまれてきた。
1階にカウンター、2階にテーブル席があった。階段の上がり下がりが大変になってきたこともあり、コロナ禍以降は夜の営業をやめ1階でランチ営業を続けてきたが、体力的に限界を感じたことから閉店を決意した。
10月中旬には店内に閉店を知らせる告知を張り出した。杉田さんは「本当は告知せず静かに閉店しようと思ったが、礼儀として張り紙は出さないといけないという話に家族でなった。行列が長くなり近所に迷惑がかからないように、店内だけの掲示にした」と話す。
閉店を知った昔の常連客や学生が店を訪れるようになったが、中には早大に用事があってたまたま立ち寄り、閉店を知った客もいたという。最終営業日には、20人弱が店の開店を待ちわびた。
感通寺の住職・新間正興さんは「誰がやってもあの味は出せない。日本一おいしいとんかつだと思っていた。価格も手頃で喜久井町のみんなのソウルフードだった。思い出を食べに来る人も多かったと思う。本当にほっとできるお店だった」と振り返る。
早大の卒業生で、X(旧ツイッター)で大学周辺の飲食店情報などを発信している「僕のワセメシ日記」さんは「小さなお店で静かな雰囲気の中、寡黙にとんかつを揚げるご主人がかっこよかった。飾らずおごらず、ただおいしい食事で来た人のおなかを満たしてくれるこういう店もまた街の魅力の一つになっていたと思う」と話す。「急な閉店で、寂しくて悲しい気持ちはあるが、今まで店を続けて、おいしいとんかつを食べさせてもらったことに、心からの感謝を伝えたい」とも。
杉田さんは「ずっと昔のお客さんも来てくれたり、涙を流してくれたりするお客さんもいた。そういうお客さんの顔を見ると本当に店を長くやってきたんだなと実感して、寂しい気持ちになった」と振り返った。