ラーメン専門店の激戦地として知られる高田馬場駅周辺の「焼きあご(トビウオ)」を使うラーメン店「麺匠(めんしょう)いし井」(新宿区下落合1)が4月30日、閉店した。
元プロゴルファーの石井洸介さんが現役時代に全国のラーメンを食べ歩き、高田馬場のラーメン店「三歩一」、東池袋の「志奈そば田なか」での修業を経て、2018(平成30)年9月に開店した。「焼きあごをベースにじっくり煮込み、うま味をふんだんに引き出し、深みがあり風味豊かな焼きあごが香るラーメン」(石井さん)が特徴。
開店当初は「焼あご醤油(しょうゆ)」と「濃厚焼きあご醤油」の2種類のスープをベースにしたラーメンを展開していたが、2019(平成31)年1月には限定メニューだったつけ麺を定番化し、4月には「焼きあご塩らーめん」を発売した。その後も限定メニューを提供する「いし井の日」に数量限定だった「焼きあご背脂らーめん」を定番にしたり、「濃厚みそらーめん」を限定で提供したり、新商品開発に力を入れてきた。
石井さんは「お客さんとの何気ない会話の中から、どのようなラーメンが求められているのか模索してきた。『高田馬場だから、盛りの良いラーメンにしてはどうか』という声もあったが、スタッフと話し合い、SNSの反応なども見ながら、『あごだし』に対するこだわりを持ち続けてきた」と振り返る。
2019(平成31)年10月~12月末に行われた高田馬場・早稲田エリアのラーメン専門店18店舗がエントリーした「ジモアラーメンスタンプラリー&総選挙2019(以下、総選挙)」では、初エントリーにもかかわらず2位にランクイン。石井さんは「開店以来、試行錯誤を続けてきたが、そのことが間違っていなかったということが分かり、大変うれしい」とコメントしていた。
総選挙で2位であることが2月に公表されると、閑散期にも関わらず客足が増加。初めて来店する客が増えはじめてきた中、3月6日に4月末での閉店を突然告知。常連客などから驚きの声が上がった。石井さんは「長く病気療養中の父親の健康状態が直近で急に悪化し、実家の家業に戻って仕事を手伝いながら、父との最後の時間を過ごすために決断した」と話す。「ラーメン店を出店する際、兄や父にとても世話になっていた。二足のわらじを履くことは難しく、親孝行できていなかったので、悩んだ末に店を閉める決断をした」と胸の内を明かす。
ゴルフ好きの父親に育てられたことで、ゴルフの道に進んだ石井さん。幼少の頃から兄もゴルフをしており、家族の仲が良いという。昨年4月には、父親の病状が深刻になる前に米国で行われるゴルフのメジャー選手権「マスターズ・トーナメント」に「最後になるかもしれない」と、家族で観戦に行っていた。
4月に入ると名残を惜しみ、限定で人気メニューだった「濃厚みそらーめん」を最後に食べようと客が増えた。閉店直前の2日間は十分にスープを用意していたが、いずれも夕方前に完売し、常連客などから惜しまれる中の閉店となった。
石井さんは「自分で店を始めてみて、店をやるのがこんなにも大変だということが分かった。多くのスタッフに助けてもらい、自分一人では何もできないと思った。やってみて分かることばかりで、常に勉強の日々だった。今回、閉店という決断をしたが、機会があれば違う場所でまたラーメン店にチャレンジしてみたい。これまで通ってくれたお客さんをはじめ、関わっていただいた皆さんに心からお礼を伝えたい」と感謝を伝えた。