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早稲田で歩んだ103年の歴史 「前野書店」閉店、店主「早稲田は空気みたいなもの」

出版した書籍が飾られている「前野書店」の本棚の様子

出版した書籍が飾られている「前野書店」の本棚の様子

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 早稲田大学近くにある1917(大正6)年創業の書店「前野書店」(新宿区西早稲田1)が2月29日、閉店した。

「前野書店」店主の前野雄一さん、早稲田大学の田中愛治総長との思い出の写真

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 「前野書店」は店主の前野雄一さんの祖父・政雄さんが創業。創業当時は、大隈記念講堂(戸塚1)近くの早稲田鶴巻町西交差点付近に店を構え、古書を取り扱っていた。「大隈重信が馬車で通う姿を見た」と祖母からよく聞かされていたという。早稲田大学に通い、学徒出陣した父・茂一さんが帰国し、現在の場所へ1946(昭和21)年ごろに店を移転した。

 早稲田幼稚園、鶴巻小学校、早稲田中学校・高校と進学し、早稲田大学社会科学部に1969(昭和44)年入学。早稲田で幼少期から過ごした前野さんは「唯一の悔いは、本籍が前の店の住所だったため、小学校だけ『鶴巻』になってしまったこと。こっちの住所なら全ての学校が『早稲田』で完結したのに」と笑顔で話す。早稲田大学では空手部に所属し、田中愛治現総長の2年先輩だった。

 1973(昭和48)年に大学卒業後、書店を継ぎ、現在まで営んできた。「早稲田の本屋は、みんな古書から始めて新本、出版という流れだった」と前野さん。早稲田大学の教員から依頼され書籍の出版も行っていた。出版した書籍の一部は、閉店当日も本棚に陳列。その中で最も古いのは、当時、政治経済学部教授だった吉村正さんによる1950(昭和25)年発行の「現代政治に於(お)ける官僚の地位」だった。「前野書店」が出版した書籍は200を超えるという。

 昨年6月に70歳になり、それを機会に閉店を決意。ネット通販の台頭などで、教員からの注文や学生の来店も減っていたという。2010(平成22)年から早稲田大学体育会のOB・OG、現役学生が中心となり、全ての人を対象とした各種スポーツの普及・振興事業を行う「WASEDA CLUB」が運営する「早稲田空手ジュニアクラブ」で地域の子どもたちに空手を教えるようになった。地域貢献の一環で早稲田大学に練習場を開放してもらい、指導している。事務局長を担う前野さんは、今後も空手指導の活動を継続していくという。

 閉店当日は、早稲田大学に向かう同世代の柔道部だった知り合いなどが訪れ、昔話に花を咲かせ、「また軽く(飲みに)行きましょう」と声を掛け合った。「生まれてからずっと早稲田。小学生のときは、早稲田大学の中を通って通学していた。小学校が一番遠くて、進学するにつれ、どんどん学校が家から近くなっていった。早稲田は空気みたいなもの」と振り返った。

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