早稲田大学の卒業生の団体である「ファイナンス稲門会」がZoomによるオンラインイベント「早稲田祭2020 “完全オンライン化”~当事者に聞く、決断と苦闘」を12月22日、開催した。
ファイナンス稲門会の幹事で、早稲田大学の社会人教育事業「WASEDA NEO」のプログラム・プロデューサー高橋龍征さんが企画・司会を務め、「早稲田祭2020運営スタッフ(以下、運スタ)」の代表・福島陽さん、渉外局長・井出圭済(よしなり)さん、参加対応局の局長・高橋収平さん(高ははしごだか、橋は呑が右)が登壇した。
早稲田祭は「昨年約20万人の来場で、『日本一の学園祭』」(運スタ)という早稲田エリアの一大イベント。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、7月にオンライン開催を発表。「今、新たに」をテーマに、11月7日・8日に開催し、約150のユーチューブチャンネルを用意。常時60~70のチャンネルで配信を行い、最大同時視聴者数7000人を記録していた。
トークイベントでは、オンライン開催、例年通りの開催、縮小して開催、延期などの可能性から模索しながら大学と話し合いを重ねてきたこと、オンライン開催を決めてから約4カ月間で準備したこと、例年とは異なる状況をどう乗り越えてきたか、早稲田祭ならではのこだわりなどの裏話が披露された。早稲田祭のオンライン開催が発表されてから、早大周辺では学生の姿が徐々に増えていた。
非対面で準備を進めてきたため、運スタ内で誰がどのくらいモチベーションが低くなっているか分からない状況だった。例年通り5人~30人のチームを組織し、準備を進めてきたが、今年はそれ以外にも寺子屋制度を導入。チームとは別に新入生と先輩のコミュニティを形成。一年生にも企画を提案してもらいモチベーションの維持に努めた。例年よりも一年生の辞めた人数は少なかったという。
例年約350団体が参加しているが、今年は約200団体になった。コロナ禍でも希望する団体には企画ができるように努力した。当日をどのような形で迎えるかイメージできない中、配信の方法や機材の準備などを伝えてきた。大学との調整の結果、すでに伝えていることから変更になることも多く、調整に苦労したという。運スタも団体も初めての状況の中、団体が不安にならないようサポートした。
感染症対策の整備も進めた。当日はもちろん、当日までサークルが練習する場合などにも守ってほしい感染症対策ガイドラインを開示。保健所でチェックを受けた際には「どの会社よりも素晴らしい内容」と言われた。当日の入退講管理のためにQRコードを活用したシステムを開発。検温も徹底した結果、2日間で出演者など約5000人がキャンパスに入構したが、クラスターは発生しなかった。気温が低くなり非接触体温計が動作しなくなり、ポケットの中のカイロで温めた緊急対応のエピソードも。
システムや配信などに詳しいメンバーが人を集め、自分たちで機材の検証や配信方法を模索してきた。他大学では事前に録画したものを配信するケースも見られたが、早稲田祭らしさを追求するために、リアルタイム配信にこだわった。双方向性や偶発性を起こすために、LINEオープンチャットの活用やユーチューブライブの配信中に他で同時に実施している企画を紹介するなどした。
オンライン開催になったことで、著作権などの課題も。権利侵害でユーチューブの配信が止まってしまうと、早稲田祭そのものが止まってしまうことになるため、パフォーマンスサークルの使用する曲にカラオケ音源を使用することで、課題を乗り越えた。CD音源を使いたいという声もあったが、理解を求めてきた。グレーなことは黒と判断し、早稲田祭が止まる可能性を極力排除したという。
配信のために大学内の有線LANを使う予定だったが、調整の結果できないことになった。「ここまで来て早稲田祭が開催できないかもしれない」と担当者は顔が焦る中、モバイルルーターなどを手配、別の回線を確保することでネットワーク環境を確保した。配信が停止した場合は公式マスコットキャラクター「わせだサイ君」が場をつなぐ準備も。大きなトラブルなく2日間を終えることができた。
福島さんは「なぜここまでしてオンライン開催をしたのかというと、コロナ禍で何かやりたいのに何もできない早大生の現状があった。早稲田祭を開催すれば、早稲田祭に向けて頑張って、行き場のない気持ちをぶつけてくれる人がいるのではないか。そういう人が一人でもいる限り、早稲田祭の開催を諦めたくないと思っていた」と振り返る。
「開催を終え、課題が残ったり、後悔したりもしたが、自分たち幹部代がかわいそうだとか、哀れだと思ったことはない。テーマにも掲げたが『今新たに』頑張ってみようという気持ちになってもらえたらという部分はできた。私たちは引退するので、早稲田祭とは関わりが減るが、早稲田文化、コロナ禍で頑張っている早稲田生の文化受け継がれていくと思う」と話す。
参加した約20人からは「素晴らしい内容」「マニュアルにしてみてはどうか」「システムを売れそう」「ドラマやドキュメンタリーとして記録に残すべき」などの声が聞かれた。福島さんからは「大変すぎて、記憶が飛び始めている。映画、ドラマが作れるレベルで他にもいろいろあった」との話もあった。