早稲田大学平山郁夫記念ボランティアセンター(以下WAVOC)のホームレス問題に取り組むプロジェクト「トーキョーサバイバー」の成果を著した書籍が4月9日、発売された。
WAVOCは、「教員の専門性×学生のやる気」をコンセプトとした「早稲田ボランティア・プロジェクト」を展開している。当時WAVOCの講師だった二文字屋脩さんがホームレスの研究に専門分野である文化人類学の視点を組み合わせた「トーキョーサバイバー」を2020年4月に立ち上げた。
二文字屋さんが、友人でフリージャーナリストの杉田研人さんが出版社を設立しようとしていたことを知ったことで、出版の話が持ち上がり、1冊目の書籍に決まった。「出版はゴールではないが、ボランティアの一つの形として商業出版という選択肢を選んだ」と話す。
プロジェクトと本のコンセプトは「アタリマエを疑え」。二文字屋さんは「プロジェクトや本を通してホームレスの現実を目の当たりにすると、自然と私たちの抱いている当たり前を疑わざるを得なくなる。一般的なボランティアとは全く逆のアプローチ。ホームレスを美化しているわけではなく、他者から自己の気付きを得る取り組み」と話す。
ホームレスを東京という都市で生活する「トーキョーサバイバー」と定義し、新宿駅周辺の彼らの生活を知ることで、多くの人にとっての当たり前の状況「ホーム」とその当たり前がない「ホームレス」という対極を乗り越え、多様な人間が共存、共生できる新たな社会空間の創出を模索する。
学生が本の執筆を担当していることも特徴。プロジェクト開始から1年半、新宿駅周辺のホームレスにインタビューを行い、推敲(すいこう)を重ねた。二文字屋さんは「商業出版のため、次のページをめくりたくなるような文章の質にこだわり、何度も再取材や書き直しを求めた。必死に食らい付いてきてくれ、学生ならではの視点で執筆してくれた」と話す。
学生執筆者の一人、藤賀樹さんは「働いて社会の役に立たなくてはいけない。私たちの社会ではどこか当たり前とされていることのように思う。だからホームレスは当たり前が欠如した可哀想な人たちと見なされてしまいがちだ。ホームレスの人たちと出会い、弱者という言葉では語り切れない彼らの生き方に触れ、勝手にそう思い込んできた当たり前を問い直すようになった。この本を手に取って、一緒に私たちのあり方を考えてもらえれば」と呼びかける。
四六判、274ページ。価格は2,750円。